沼田の湯立神楽・宵祭(子之神社)

【祭礼日】10月最終土・日曜日
【場 所】子之神社(御殿場市沼田238)

【日 程】土曜日〔宵祭〕17:50~18:20(禊ぎ=不動池)、18:30~20:30(湯立神楽)

日曜日〔例祭〕8:50~9:30(式典)、9:45(巡幸開始)、10:30~10:45(神事=北の子之神社)、11:20~12:00(休憩・直会の神楽=諸久保集会所)、12:15(巡幸)、13:00~14:00(休憩・直会の神楽=沼田区集会所)、14:15(巡幸)、15:45~16:20(神輿還御の神楽)

富士山東麓地域(静岡県御殿場市・神奈川県箱根町など)には、安永年間(1772~1781年)の頃、当時流行した悪病の厄払いのため甲州下吉田(現在の山梨県富士吉田市)の行者・萱沼義兵衛(カヤヌマギヘエ)が伝えたといわれる「湯立神楽」が今日までそれぞれ伝承されています。

子之(ネノ)神社で行われる「沼田の湯立神楽」はそのうちの一つで、沼田には「安永二年 沼田邑 惣若者芸萱沼義兵衛 印」と奥書された神楽の指南書『辻引本』が残されており、その後、中絶していたものを明治27年(1894年)に箱根の仙石原から伝授、再興したといわれます。

今年3月23日に、御殿場市沼田・大坂の湯立神楽は「沼田・大坂の湯立神楽」として、箱根町宮城野・仙石原の湯立神楽は「箱根の湯立獅子舞」として、ともに国の重要無形民俗文化財に指定されました。いずれも湯立を獅子が行うという珍しい湯立神楽です。

沼田の湯立神楽は、神の降臨を願う「湯立神楽」、その翌日降臨された神に奉納する「直会の神楽」、夕方に神を送る「神興還御の神楽」の三段で構成されています。

子之神社の本殿は高さ3mほどの石垣の上にあり、湯立神楽の祭場は本殿下の境内の一角に設けられます。3間(5.4m)四方に立てた4本の斎竹(イミダケ)に七五三の注連繩を張り巡らし結界とし、その中央に樺(カンバ)の生木3本で支えた2斗(36リットル)入りの大釜を据えて湯を湧かします。

本殿に通ずる石段の下左側に「湯棚」が設けられ、湯立に使う幣束と笹束が置かれます。湯棚の左側には東屋(アズマヤ)が設けられています。

【湯立神楽の式次第】

一番 七五三の舞:幕(マク)の舞・幣の舞・鈴の舞・狂(クルイ)獅子

二番 行の舞:さがり葉・幣の舞・鈴の舞・狂獅子

三番 宮めぐり:幕の舞・幣の舞・剣(ツルギ)の舞・狂獅子

四番 釜めぐり:幕の舞・幣の舞・剣の舞・風切り・湯たぶさ・狂獅子

五番 四方固め:さがり葉・幣の舞・鈴の舞・狂獅子

【禊 ぎ】宵宮の夕方18時少し前、弓張提灯を手に裸足になった神楽の舞方・囃子方など10人ほどが、「懺悔懺悔(サンギサンギ) 六根清浄(ショウジョウ)」と唱えながら神社から500mほど離れた不動池に向かいます。池で禊ぎ(水垢離)をし、池の砂をザルに掬い神社に戻ってきます。ザルの砂は塩と混ぜ、湯立神楽の中で「塩振り役」が撒きます。

【神楽の概要】18時30分から祭場で湯立神楽が始まります。七五三の舞・行の舞・四方固めは湯棚の前で舞われ、宮めぐりは本殿の周りで舞われ、釜めぐりは釜の周りで舞われます。

幕の舞・さがり葉・狂獅子は二人立ちの獅子で舞い、幣の舞・鈴の舞・剣の舞・風切り・湯たぶさは一人立ちの獅子で舞います。

幕の舞は男性的な舞で力強く舞い、さがり葉は女性的な舞でしなやかに舞います。狂獅子は、獅子が悪魔を噛み追い払うものとされ、勇壮に舞い最後に所望する観衆の頭を噛みます。

幣の舞は幣束を持って舞い、鈴の舞は右手に鈴を左手に幣束を持って舞い、剣の舞は右手に鈴を左手に剣を持って舞い、風切りは幣束を持って舞い、湯たぶさは笹束を持って舞います。

獅子の胴幕は藍色の木綿地で、その胸部に牡丹の花を、胴体の左右には丸めた赤の伊勢海老が描かれ、その中に「伊」の字が描かれています。

【神楽の所役】神楽の舞方は黒の長着姿で素足に草鞋を履いています。一番から五番までのそれぞれの舞の中心的役割をする5人の舞手を「シン」と呼んでいます。

塩振りは、獅子が舞い進む方向に塩を撒き獅子を導く重要な役割を演じます。神楽の舞方と同じように黒の長着姿で素足に草鞋を履いています。

囃子方は、締め太鼓打ち2人・大太鼓打ち1人・笛数人です。紅白の綾棒2本に括り付けられた締め太鼓3台は東屋に据え置かれます。大太鼓は注連縄の結界の左側に据えた太鼓台に置かれます。締め太鼓打ちは東屋の中で、大太鼓打ちと笛方は結界の左側で囃子を奏します。

大太鼓打ちと笛方の周りには、「神楽歌」の歌方数人がいます。神楽歌は、七五三の舞には「太平楽」、行の舞には「志んいとしさ」、宮めぐりは「太平楽」と「げにや神国(シンコク)」を歌います。

【宮めぐり】神迎えの性格をもつ神聖な舞で、注連縄を肩掛けした神楽の舞方・囃子方などが石段を上がり、本殿の周りで舞を奉納します。七五三の歩調で時計回りに3回本殿を回った後、本殿前で五方に舞うのだそうです。

村人といえども注連縄を肩掛けした人しか石段を上がることはできず、暗がりの中、笛・太鼓の囃子が聞こえ獅子などの姿を遠くから垣間見るだけです。

宮巡りが終わると、次の舞である釜めぐりの獅子を中にして、その左右に宮めぐりのシン・行の舞のシンが横一列に並んで、それぞれ右手に鈴を左手に剣を持って石段を下りてきます。

【釜めぐり】幕の舞・幣の舞・剣の舞では、獅子は時々釜に近づいては片足を燃え盛る火の中へ突っ込んで修験道的な動作をみせますが、その足は決して火傷をしないといわれています。

剣の舞のあと、釜の湯を鎮める「風切り」が行われます。

獅子は案内役に引かれて湯棚の前に行き、棚に置かれた幣束を手に持って呪文を3回唱えます。次に、釜の前に戻り幣束を高く上げて「風」の字を空間に描き、次に、逆さにした幣束で釜の湯を3回かきまわした後、二拝します。以上を3回繰り返し行った後、幣束を湯棚に戻します。

「風」の字は「かぜかんむり」の中に縦に二つの点(丶)で書いた略字を描くのだそうです。

風切りのあと「湯たぶさ」が行われます。湯たぶさでは、宮めぐりのシンが獅子の案内役になります。

獅子は案内役に引かれて湯棚に置かれた二束の笹束を手に取り、釜の前に戻って笹束で釜の湯を3回かきまわした後、両手で横一文字に拡げた笹束を頭上で「バッシ、バッシ」と2回打ちます。この時、湯花が四方に飛び散ります。以上を釜の前で3回繰り返し行います。

獅子が笹束で釜の湯をかきまわすと、湯がこぼれて獅子(シン)の素足にふりかかりますが熱さを感じないといわれます。

釜の前での湯立の後、釜の湯を含ませた笹束を持って、同じように湯棚に3回、本殿に3回、末社に1回、囃子方に1回、観衆に3回(3方向に1回ずつ)ずつ湯花を散らします。この湯花をいただくと一年間病気にかからないといわれています。

獅子は案内役に引かれて湯花を散らすたびに、釜に戻り釜の中の湯をかきまわし笹束に湯を含ませます。最後に、笹束は湯棚に戻されます。

【四方固め】湯立の行により村内の悪魔・病魔は退散しますが、これが再び村内に入って来ないように四方を固める舞です。

 

舞庭の七五三の注連縄と大釜                          湯 棚        

 

禊ぎのため不動池に向かう                   締め太鼓

 

     大太鼓                           東屋の締め太鼓打ち

 

釜の支えの樺を水で冷やす                    七五三の舞(幕の舞)

 

 七五三の舞(幣の舞)                      七五三の舞(鈴の舞)

 

 七五三の舞(狂獅子)                      行の舞(さがり葉)

 

  行の舞(鈴の舞)                        行の舞(狂獅子)

 

釜めぐりに向かう獅子とシン               釜めぐり(幕の舞)          

 

   釜めぐり(幣の舞)                    獅子が片足を火に突っ込む

 

 釜めぐり(剣の舞)                      釜めぐり(湯切り)

 

釜めぐり(湯たぶさ・釜の前で3回)

 

      釜めぐり(湯たぶさ・湯棚に3回)        釜めぐり(湯たぶさ・本殿に3回、末社に1回)

 

     釜めぐり(湯たぶさ・囃子方に1回)       釜めぐり(湯たぶさ・三方向の観衆に各1回)

 

  釜めぐり(狂獅子)                     四方固め(さがり葉)

 

 四方固め(幣の舞)                      四方固め(剣の舞)

 

四方固め(狂獅子)

沼田の湯立神楽・宵祭

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