西浦の田楽(西浦観音堂)

【祭礼日】1月18日(旧暦)
【場 所】西浦観音堂(浜松市天竜区水窪町奥領家5219)

【日 程】21:00~翌朝8:00

西浦(ニシウレ)観音堂は、養老3年(719年)に僧行基がこの地において観音像と数個の面を作り奉納したのが創始とされ、観音堂の旧暦正月18日の修正会(シュショウエ)に室町時代から伝わるとされる「西浦の田楽」が夜を徹して行われます。

かつては「木の根祭り」とも呼ばれ、内容は狭義の田楽にとどまらず「田遊び」・「猿楽能(サルガクノウ)」・神楽なども含み、「地能(ジノウ)」と呼ばれる三十三番と「はね能」と呼ばれる十二番、番外の四番があります。西浦の田楽は、素朴にして古態を留め、中世の能楽を厳格に伝承しているとして国の重要無形民俗文化財に指定されています。

【能 衆】奉納行事は、観音様の別当・高木家の当主を中心に23人の「能衆(ノウシュウ)」によって行われます。能衆はこの土地を切り開いたといわれる7集落17軒の家柄の人々で、すべて特定の屋号の家で代々受け継がれ、地能ではすべての役について担当する家が決められています。はね能を演ずる人は、7集落の男子であること以外に条件はありません。

能衆には、別当を補佐する公文衆(クモンシュウ)4人、上・中・下3組の能頭(ノウガシラ)3人、能衆の子どもから選ばれる「タヨガミ」と呼ばれる松明の守役2人がいます。(今年はタヨガミは1人だけのようでした)

演者の服装は、羽織袴姿又は格衣(カクエ)姿に引立烏帽子(ヒキタテエボシ)を被り、演目によっては裁着袴(タッツケバカマ)を着けたり冠を被ったりします。

祭礼当日午前中に別当家で「天狗祭り」(見学不可)が行われ、昼過ぎから舞庭を準備する「庭定め」「御船(オフネ)作り」、夕方から舞庭で別当・能頭・タヨガミなどにより神迎えの「おこない」が行われます。

午後7時頃から別当家に能衆が集まり「御酒(ミキ)上げ」が行われ、その後、松明12本などを持って行列を組んで舞庭に上がる「庭上がり」をします。

【舞 庭】舞庭の向かって正面に笛・太鼓の囃子方が入る仮設の建物「楽堂(ガクドウ)」があり、舞庭の右端に能衆の控え部屋とする「幕屋(マクヤ)」があります。

舞庭の左端に直径1m・長さ4mほどの直立した北松明と寝かされた南松明があります。南松明に点火されると舞が奉納されます。

【演目・地舞】1.庭ならし、2.御子(ミコ)舞、3.地固め、4.地固めもどき、5.剱(ツルギ)、6.剱もどき、7.高足(タカアシ)、8.高足もどき、9.猿の舞、10.ほた引き、11.船渡し(フナワタシ)、12.鶴の舞、13.出体(デタイ)童子、14.麦つき、15.田打ち、16水口(ミナクチ)、17.種まき、18.よなぞう、19.鳥追い、20.殿舞(トノマイ)、21.早乙女、22.山家(ヤマカ)早乙女、[蔵入れ]、23.種おり、24.桑とり、25.糸引き、26.餠つき、27.君(キミ)の舞、28.田楽舞、29.仏の舞、30.治部(ジブ)の手、31.のた様(サマ)、32.翁、33.三番叟(サンバソウ)

1番「庭ならし」から8番「高足もどき」までは、舞庭を浄め悪霊を祓う舞です。このうち神楽である「庭ならし」「御子舞」を除く「地固め」「剱」「高足」にはそれぞれ「もどき」が付きます。もどきは本芸を真似て、時には滑稽に演じます。

9番「猿舞」は猿楽能で、10番「ほた引」から13番「出体童子」までは観音浄土から穀霊を舞庭に迎える演目です。

14番「麦つき」から26番「餅つき」までは田遊びで、農耕・養蚕の過程を演じる予祝芸です。27番「君の舞」から33番「三番叟」までは田楽・猿楽能です。

1.庭ならし 能衆全員が楽堂前に立ち、『やいやあ あたらしき年のはじめい 年をとこ そらみればんよふ そらみれば そらこそよけれじゃあ とみふろよとて とみふろよとて とみそまします やら目出たやい』などと9首の春歌を歌います。

3.地固め 能頭の1人が右手に9尺 の長槍を左手に扇を持って舞います。もどきでは6尺の長槍を持って舞います。

5.剱  能衆の1人が右手に扇を左手に真剣を持って舞い、もどきでは木刀を持って舞います。

7.高足  能衆の2人が木製の高足 (一本棒の竹馬)に乗って舞庭を跳び回ります。もどきでは、どちらが長く高足に乗っていられるかを競ったりします。

9.猿の舞 猿面をつけた雄猿が木の鎌を持って山仕事の所作をし、次に、猿面をつけ女陰型をぶらさげた雌猿が出てきて弁当を運んだりした後、雄雌の猿が即興の性問答をします。

10.ほた引き 南松明の火のついた「ほた」(焚き木)1本を引き出し、ほたの両端に藤蔓の綱を結び、能衆2人がこれを引っ張り縄跳びの縄のようにしてほたを回し火の粉を飛ばします。

11.船渡し 観音堂から北松明の頂上に引いた2本の綱を伝い、護摩火を乗せた船をからくりで運び北松明に点火します。船には木で作った観音様2体と竹と紙で作った7本の矢も乗っています。

13.出体童子 白の鉢巻を締めた能衆4人が冠を手に持って舞い、次に冠を被り右手に鈴を左手に扇を持って、「トウジャ トウジ」と歌いながら舞います。

14.麦つき/15.田打ち 能衆8人が立てた太鼓を取り囲んで撥(バチ)で打ち、刈り取った麦の穂を杵などで打ち実を落とす麦つきと、鍬で田を打つ所作をします。

16.水口 太鼓に座って本を読んでいる能衆の上衣や烏帽子を、別の能衆が後ろから盗ったり返したりする所作を繰り返します。田への水の取り入れを表しているのだそうです。

18.よなぞう 旦那の「ててつこ」に命ぜられてよなぞうが牛を買いに行き、この牛が観客の中に突っ込んだりして大暴れします。牛は、青草を踏んで肥料にしているのだそうです。

19.鳥追い 能衆4人がそれぞれ手に持つ摺りササラで音を出し、蒔いた種が食べられないように鳥を追い払います。

20.殿舞 扇・小刀・長刀・弓鉾・槍・台笠・弓矢・弓を持つ8人の能衆が、「チャー チーチーチー チララウラーラ」と口拍子を唱えながら舞庭を周回し問答をした後、1人が観音堂の屋根に向かって矢を放ちます。

22.山家早乙女 田の神の分身「ネンネンボーシ」を背負う子守り役に「ネンネンボーシ ヘーボイゾ ヘーボー ヘーボー」と囃し立てる子供たちを、子守り役がホウキをもって追いかけ回す所作をします。この後 ネンネンボーシのご飯を観客に振る舞います。

「蔵入れ」  山家五月女が終わると、能衆一同は別当家にさがって夜食をとり1時間ほど休憩します。

25.糸引き 蚕の繭に見立てた茣蓙で蚕に見立てた能衆を囲み、繭の糸を引く所作をします。23番・24番とともに養蚕の作業を表しています。

26.餠つき 能衆3人が、太鼓を臼に着物を餅に見立てて餅つきをします。

28.田楽舞 びんざさらをもつ4人と「シッティ」と呼ばれる白の小鼓を持つ1人がそろって舞います。 

29.仏の舞 舞庭の照明が消された中で、小松明を持つ付人とともに六観音(聖観音・千手観音・馬頭観音・十一面観音・如意輪観音・准堤(ジュンデイ)観音)の面を着けた6人が、一列になって舞庭を行道します。

【演目・はね能】1.高砂、2.しんたい、3.梅花(バイカ)、4.山姥 (ヤマンバ)、5.さお姫、6.猩々(ショウジョウ)7. 鞍馬天狗(テンゴン)、8.観音の五方楽、9.野々宮、10.屋島(ヤシマ)、11.辨慶、12.閏舞(ウルマイ) 

はね能の4番山姥から11番辨慶までの舞順番は、年により異なります。(上記は今年の舞順です)このうち「閏舞」は閏年にのみ演じられます。

はね能は、すべて面を着けた舞で謡(ウタイ)を伴います。山姥・さお姫・観音の五方楽・鞍馬天狗・屋島・辨慶は複数人で舞い、その他の舞は1人舞です。

5.さお姫 男面と女面を着けた3人が手に木の枝を持って飛び跳ねるようにして舞います。

9.野々宮 女面を被り赤橙色の前掛けを着け、両手に木の枝を持って優雅に舞います。

10.屋島 謡の途中で赤鬼面と白鬼面が太刀で斬り合います。

【しづめ】1.獅子舞、2.しづめ、3.火の王、4.水の王

「しづめ」は舞庭に集まった神々を送る儀礼で、観客は楽堂の奥の方に移動し舞庭に観客は入れなくなります。

1.獅子舞 獅子頭は箱獅子と呼ばれる中世の古い形で白の胴幕に2人が入ります。別当が胴幕に入り獅子頭を持ちます。薬師面を着けた能頭1人が後ずさりしながら幕屋から獅子を招き出し、獅子は楽堂の前方に敷かれた筵の上に膝立になり呪文を唱えます。その後、獅子は後ずさりする薬師面に招かれるようにして幕屋にさがります。

2.しづめ 別当が鬼面を捧げ持って幕屋から出て、先ほどの筵の上で「反閇(ヘンバイ)」を踏みます。次に、筵に坐り鬼面を着けて手で印を結びます。

楽堂にいる能頭の1人が「びしやもんのいでさせたもう所に なんじは来まいものだぞ なにしに来た。烏の頭が白くなるとも 枯木に花が咲くとも 岩に花が咲くとも なんじは来まいものだぞ。それならば一ちくとって もとの本郷へ帰れ」と叫びます。

別当は、「ウォー」と叫んで反り返り呪文を唱え、別当の息子に手をとられて後ろ手・後向きのまま冪屋にさがります。

3.火の王 別当が火の王の面と笏(シャク)を捧げ持って幕屋から出て、筵の上で反閇を踏み、笏で面を祓った後、後ずさりしながら幕屋にさがります。

4.水の王 別当が水の王の面を捧げ持って幕屋から出て、筵の上で反閇を踏み、閉じた扇で面を祓った後、後ずさりしながら幕屋にさがります。

 

庭上り                       南松明に点火する 

 

庭ならし                                御子舞

 

地固め                                   剱

 

高 足                                猿の舞

 

       ほた引                           舟渡し

 

  鶴の舞                                出体童子

 

麦つき                                 水 口

 

 種まき                                よなぞう

 

鳥追い                                殿 舞

 

  早乙女                                山家早乙女

 

糸引き                                 餅つき

 

君の舞                                田楽舞

 

 仏の舞                                治部の手

以下 はね能

 

高 砂                                 山 姥

 

さお姫                                 野々宮

 

屋 島                                 辨 慶

 

獅子舞                                 しづめ

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