八重河内の霜月祭り(尾之島正八幡神社)

【祭礼日】12月15日
【場 所】尾之島正八幡神社(飯田市南信濃和田2344)

【日 程】12:00~24:30

遠山郷の霜月祭りは現在12月に行われていますが、かつては旧暦霜月(シモツキ)11月に行われていました。最も太陽の光が弱まりあらゆる生命の力が衰えるといわれる旧暦11月に、諸国の神々を招いて湯を立て湯を献じ、自らも浴びることによって神も人も生まれ変わるという信仰に基づく祭りです。太陽が沈む夕刻に神々を迎え、一夜を徹してもてなし夜明けに神々を返します。

遠山郷の霜月祭りには、上町(カミマチ)・下栗(シモグリ)・木沢・和田の4タイプがあり、和田タイプは、和田の諏訪神社・八重河内(ヤエゴウチ)の尾之島正八幡神社・南和田の大町天満宮の3ヶ所で行われています。和田タイプの霜月祭りには次のような特徴があります。

1.囃子に笛がなく太鼓だけです。

2.舞は、日の出を拝む位置である舞殿の西隅から始まり(他タイプは湯釜の正面から始まる)北・東・南・西の四隅で5回繰り返されます。

3.「神明帳」の段がなく、全国の一の宮を招く奉読は「湯立」の中で行います。

4.登場する面(オモテ)が41面と多い。(和田タイプの3神社は、尾之島正八幡神社に所蔵されている面を持ち回りで使用していますが、この面はかつてそれぞれの神社にあったものを集めたのだと伝えられています。このため面の数が多くなっています)

5.「天伯(テンパク)」がなく「猿」が出ます。

八重河内の舞殿は神社拝殿の手前にあり、板敷の中央に正方形の炉が切られ、この中に据えられた鉄製の五徳の上に湯釜1口が置かれています。湯釜の真上には「湯の上飾り」と呼ばれる数多くの白の切り紙で飾られ方形に張り巡らされた注連縄が吊り下げられています。

【式次第】1.湯の式、2.ふみならしの舞、3.湯開き、4.神清め、5.下堂(ゲドウ)祓い、6.一の湯、7.金湯の御神楽、8.二の湯 神子・神子取上、9.願神楽、10.祝儀の舞、11.鎮めの湯、12.八乙女、13.火伏せ、14.面、15.神送り、16.かすの舞、17.ひいなおろし、18.金剱(カナツルギ)の舞、19.釜返し。

1.「湯の式」 拝殿の左側で、湯衣を着け立烏帽子(タテエボシ)を被った舞手6人と太鼓を打つ楽頭(ガクトウ)1人が、全国の神々と村内の神々を呼び寄せる神楽歌を歌います。

2.「ふみならしの舞」 舞殿で4人の舞手が、右手に扇を左手に鈴を持って祭場を踏み固める舞を行います。

3.「湯開き」 格衣(カクエ)姿の太夫禰宜(タユウネギ)が、炉の四隅で祓いを行ない釜を覆っていた湯蓋を取ります。

4.「神清め」 太夫禰宜が釜の湯を湯桶に汲んで、炉の四隅・舞殿・境内などに柄杓で湯を振りかけます。

5.「下堂祓い」 4人の舞手が、右手に太刀を左手に鈴を持って勇壮に舞います。神楽で迎えた神々についてやってきた悪霊を追い払う舞です。

休憩の間、この1年間に子供が誕生した氏子が霜月祭りに合わせて神社に「初参り」をし、拝殿で神職がお祓いをし祝詞を奏上します。今年は1組でした。

6.「一の湯」 太夫禰宜と舞手合わせて12人(旧暦閏年には13人)が、右手に湯木(ユボク)を左手に鈴を持って湯釜をゆっくりと右回りで周回しながら舞います。この時、太夫禰宜が輪の中で神名帳を手にして全国および村内の神々の名を読み上げ、舞手が釜湯の中に湯木の元を入れて湯の雫を神々に捧げます。

7.「金湯の御神楽」 (現在は行われていません)

8.「二の湯」 6人の舞手が湯釜をゆっくりと周回しながら舞います。湯木を両手に1本ずつ持つ人と、右手に湯木2本を左手に鈴を持つ人が交互に並んで舞っていたようです。二の湯に引き続いて行われる「神子」・「神子取上」の舞は、現在は行われていません。

「願神楽」の前に、「小中学生の舞」があります。紺の直垂を着けた小学生4人が、最初、右手に閉じた扇を左手に鈴を持って舞い、次に、右手に太刀を左手に鈴を持って舞い、次に、右手に開いた扇を左手に鈴を持って舞います。

次に、白の直垂を着けた中学生4人が同じように舞います。後継者育成のために行っているようで頼もしい限りです。

9.「願神楽」 12人の舞手が、湯木を両手に1本ずつ持って釜を右回りや左回りに周回しながら舞い、釜湯の中に湯木の元を揃って入れたりします。

10.「祝儀の舞」 下堂祓いと同じように4人の舞手が、右手に太刀を左手に鈴を持って勇壮に舞います。本来は神子取上があった時、神子から祝儀を戴いて舞うものです。現在は神子取上はしていませんが舞の保存のために行っているそうです。

11.「鎮めの湯」 一ノ湯と同じように舞います。

12.「八乙女」 拝殿で5人の舞人が右手に持った中折り紙を揺らしながら舞い、面神を降ろします。

13.「火伏せ」 太夫禰宜が湯釜の中に湯木を立てた後、湯の上に手を伏せます。これによって煮えたぎる湯が静まるといわれます。

14.「面」 41の面が登場します。最初に「水の王」が、両手を腰にあて上体を大きく反り返しながら釜の周りを5周します。2周目に炉の四隅で九字の印を結び、3周目に湯切りの真似をし、4周目に湯切りを行ないます。湯切りの湯を浴びると一年が息災で過ごせるといいます。

次に、「火の王」「遠山様」などの面が登場しそれぞれ釜を三周しますが、一部の面は特別な動きをします。

青の烏面を被った「秋葉神社」は、皆の掛け声に合わせて釜の四辺を勢いよく跳び回ります。木沢の霜月祭りの四面(ヨモテ)をまねて近年になって始められたそうです。

「しょんべんばあさ」は、紅緋色の着物を着て笹の葉を束ねた「湯たぶさ」を持って釜を周回し、皆がお尻を触ったり悪戯をすると湯たぶさで叩いたり、爺さと呼ばれる「神太夫(カンダユウ)」に抱きついたりします。

最後に、右手に御幣を左手に扇を持った赤装束の「猿」が登場し釜を5周半し、1周目は炉の四隅で7回ずつ3回、2周目は5回ずつ3回、3周目は3回ずつ3回跳び上がります。

15.「神送り」 太夫禰宜が炉の西隅で神返しの言葉を唱えます。次に「もず」と呼ばれる二人が腰を屈めて向かい合い、右手に持った湯たぶさを振りながら「キチキチキチ」と唱えた後、すれ違って互いの場所を入れ替わります。これを炉の四隅で5回行います。

16.「かすの舞」 1人の舞手が、サイの目に切った大根を山盛りに載せた盆を持って釜を周回しながら舞った後、盆の大根を撒き散らします。神返ししたにも拘わらずまだ残っている神様に「もうご馳走はカスしか残っていないのでお帰り下さい」と意思表示しているのです。最後に、釜の四方に結界を張るような所作の「天地天地の舞」を舞います。

17.「ひいなおろし」 1人の舞手が右手に湯たぶさを左手に鈴を持って舞い、次に、右手に白紙を左手に鈴を持って舞い、次に、白紙をちぎって「破れ紙は千枚よ」と唱えながら炉の四隅にある幣串に挿して置きます。次に、置いた紙と幣串を拾いこれを両手に持って舞った後、湯釜下の火の中に紙と幣串を投げ入れます。次に、再び右手に湯たぶさを左手に鈴を持って舞い、最後に「天地天地の舞」を舞います。

18.「金剱の舞」 1人の舞手が右手に鈴を左手に湯たぶさを持って舞い、次に、別の舞手が釜に湯蓋を被せ、舞手が湯蓋にかざした湯たぶさを鈴で叩く所作をした後、別の舞手が湯蓋を取り外します。これを四隅で行います。次に、舞手が右手に鈴を持ち左腰に差した剣の柄を左手で持って舞い、次に、剣を抜いて炉を周回しながら湯飾りを7回切りつけます。最後に、舞人が西隅のムシロの上に立ち湯釜に剣を突き出す所作をすると、皆さん湯飾りを取り合います。

19.「釜返し」 釜の湯を氏子総代に汲み渡す儀式で、右手に鈴を左手に扇を持った舞人が釜から湯をすくい氏子総代の持つ扇の上にあける所作を3回繰り返します。これで一切の儀式は終わります。

 

舞 殿                                 楽 頭

 

   湯の式                             ふみならしの舞

 

湯開き                                 神清め

 

下堂祓い                               一の湯

 

小中学生の舞

 

 願神楽                                祝儀の舞

 

鎮めの湯                                八乙女

 

火伏せ                                 水の王

 

火の王                                遠山様

 

秋葉神社(烏天狗)

 

しょんべんばあさ                             神太夫   

 

 猿                                  神送り

 

  かすの舞                               ひいな降ろし

 

金剱の舞                                 釜返し

祭りの栞(トップ)

 

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