上町の霜月祭り(上町正八幡宮)

【祭礼日】12月11~12日
【場 所】上町正八幡宮(飯田市上村754)

【日 程】11日13:00~12日8:00

遠山郷の霜月祭りは現在12月に行われていますが、かつては旧暦霜月(シモツキ)11月に行われていました。最も太陽の光が弱まりあらゆる生命の力が衰えるといわれる旧暦11月に、諸国の神々を招いて湯を立て湯を献じ、自らも浴びることによって神も人も生まれ変わるという信仰に基づく祭りです。太陽が沈む夕刻に神々を迎え、一夜を徹してもてなし夜明けに神々を返します。

遠山郷の霜月祭りには上町(カミマチ)・下栗(シモグリ)・木沢・和田の4タイプがあり、上町タイプは、神事に先立ち般若心経を唱えたり常に数珠を首に掛けて神事や舞などを行うなど、神仏混淆の姿が色濃く残されています。囃子は大太鼓1人と笛数人です。

祭場は土間で、その中央に粘土で作られた竃(カマド)2口が据えられ、竈の上には「湯の上飾り」が吊り下げてあります。湯の上飾りは、天井から吊り下げた木枠に張られた七五三縄に、白の紙を日・月・鳥居・八つ橋などの形に切り抜いた飾りや幣束・紙垂(シデ)を付けたものです。

本祭前日の10日早朝から祭りの準備がなされ、18時から宵祭りが行われます。本祭当日、11時に大祭が催され13時から本祭が始まります。

【式次第(本祭)】1.座揃え、2.大宮清め、3.神ほぎ、4.酒女引(シメビキ)神楽、5.神帳、〔あげのさ・八丁字立て・お白餅献上〕、6.申上げ、7.先湯(センユ)、8.大宮清め、9.上げ湯、10.湯の花、〔子供の舞・初参り〕、11.四つ舞、12.津島明神の湯、13.鹿島明神の湯、14、池大明神の湯、15、諏訪明神の湯、16、交通安全の湯、17.七石の湯、18.御一門の湯、19.八乙女の舞、20.花の御神楽、21.襷の舞、22.羽揃えの舞、23.鎮めの湯、24.日月の舞・御座の神、25.面(オモテ)の舞、26.金山の舞、27.神送り、28.遊びのさ送り

1.座揃え 白の水干(スイカン)姿に烏帽子を被る禰宜(ネギ)4人が竃の前に横一列に座り、その後ろに大太鼓が置かれその両脇に別の禰宜5~6人が座ります。前列の祢宜の前には、火打石・火打金・祓幣(ハライヌサ)・塩・輪切りの大根を載せた丸膳2膳が置かれています。

前列の禰宜2人が、火打石と火打金で火を起こし竃に火入れした後、禰宜一同が太鼓に合わせて祓幣を振りながら祓い詞(コトバ)を唱えます。

 

座揃え(火入れ)

2.大宮清め 後列の禰宜が祓幣や鈴を振り神楽を歌いながら社殿内外を巡り塩を撒いて清めます。前列の禰宜は、社殿脇にある富士天伯社の前に「おわき」を立てます。おわきは、長さ4~5mの竹の上部に縛り付けた藁束に紅白の紙垂10本ほどを挿し込んだもので、神々を迎える標木です。

   

                      大宮清め                         大宮清め(おわき立て)             

3.神ほぎ 座揃えと同じように禰宜一同が竃の前に座り、太鼓に合わせて祓幣を振りながら祓い詞を唱えます。

神ほぎ

4.酒女引神楽 竈の前に清酒一升瓶が置かれ、前列の禰宜が太鼓に合わせて酒女引神楽の「オモテ」を歌い、後列の禰宜が鈴を振りながら「ウラ」を歌います。前列の禰宜が、神楽歌に合わせて一升瓶の口の上で祓幣を揺らします。

(オモテ)清めする 惣谷川の ヤンヤーハーハー(弥々栄々) 滝の水

(ウラ) 滝の水 落ちて清まれ ヤンヤーハーハー 七滝の水 (以下省略)

 

酒女引神楽

5.神帳(神名帳) 神帳は、神社や神の名を記した巻物で、黒紋付羽織袴の4人が竈の前で、全国の一の宮を読み上げて神々を祭へ招待します。

神 帳

〔八丁字立て〕 神帳が始まると、禰宜の1人が竈の周りに八本の幣を立てます。

八丁字立て

〔お白餅献上〕 次に、白の紙で顔を覆った2人の禰宜が拝殿で、高坏(タカツキ)にお白餅を盛り付け、本殿・富士天伯社などに献上します。お白餅は、洗ったうるち米を摺って粉にしたものを小さな鏡餅の形にしたものです。

お白餅献上

6.申し上げ 黒紋付羽織袴姿の4人が竈の前で、全国から招待した神々へ様々な願い事を申し上げます。

 

湯の上飾り                               申上げ 

7.先湯 湯立「七立」のうち最初の「先湯一」は「湯開き」とも呼ばれ、禰宜4人が、五大尊・神の舞・湯木舞・道開き・湯殿渡し・湯召しの順で舞い、「先湯二~七」では、五大尊と神の舞は省略して行われます。

五大尊は、竈の前で火打ちの呪文を唱え火切りをし、五大尊の印を結び九字を切ります。これを竃の東西南北と正面の五方に移動し繰り返し行います。                               

神の舞は、右手に鈴を左手に扇を持って神前に向かって2回舞います。

湯木舞は、右手に鈴を左手に湯木2本を持って舞います。

湯開きは、湯木2本をまとめて両手で持ち、禰宜が「東方の神の道」と唱えると、観衆が「守(モリ)開かで誰ひらく」と和し、神々の道開きを行います。これを五方に向かって行います。

湯殿渡しは、湯木を二つに割り両手に1本ずつ持ち、湯殿渡しの歌を歌い舞います。禰宜が「オモテ」を歌い、観衆が「ウラ」を歌います。

(オモテ)「御代体(オンシロタイ)を双手に持ちてな ヤンヤーハーハー」

(ウラ) 「拝むには四方の神をな ヤンヤーハーハー」 

(オモテ)「梵天帝釈の湯殿にわたるな ヤンヤーハーハー」

(ウラ) 「湯衣は綾か錦かな ヤンヤーハーハー」 (以下省略)

湯召しは、湯木2本をまとめて右手で持ち湯木を釜に入れて湯を少し上げます。この時、禰宜が「何々神のお湯召す時は」と唱えると、観衆が「御影(オミカゲ)こそは くんも(雲)と昇れ」と和します。

 

先湯・湯開き(五大尊)                          丸 膳      

 

  先湯・湯開き(神の舞)                   先湯・湯開き(湯木舞)

 

 先湯・湯開き(湯殿渡し)                    先湯・湯開き(湯召し)

9.上げ湯 先湯七立の間に禰宜数人が、釜の湯を組んだ柄杓と祓幣を持って「上げ湯こそ 上げ湯こそ 神はよろこぶ上げ湯こそ」と歌いながら社殿内外を清めて回ります。

 

上げ湯

〔子供の舞〕 後継者育成のため、小中学生が扇の舞・襷の舞などを舞います。

 

子供の舞(扇の舞)                        子供の舞(襷の舞)

〔初参り〕 その年に生まれた子供を連れた親が神前に酒一升と魚を供えて、神職のお祓いを受け子供が氏子となる初詣りを行います。

初参り

11.四つ舞 白の水干姿に剣を腰に帯び烏帽子を被る4人が、右手に鈴を左手に扇を持って竈の前と後に2人ずつ分かれて舞います。次に、左手に持つ扇を抜き身の剣に替えて舞います。

 

  四つ舞(扇の舞)                         四つ舞(剣の舞)

21.襷の舞 黒紋付の着物・袴姿に剣を腰に帯び、片襷・むこう縛りの鉢巻を着けた4人が、右手に鈴を左手に扇を持って竈の前と後に2人ずつ分かれて舞います。次に、左手に持つ扇を抜き身の剣に替えて勇壮に舞います。

 

 襷の舞(扇の舞)                        襷の舞(剣の舞)

22.羽揃えの舞 留袖姿に紫の鉢巻を横結びした女装の4人が、右手に扇の右親骨を持って竈の前と後に2人ずつ分かれて静かに舞います。

羽揃えの舞

23.鎮めの湯 上町の霜月祭りでは、湯立は先湯七立を含め十五立行われ、鎮めの湯は最後の湯立です。神仏混淆の湯立で、地から足を離さず鈴の音も殺して静かに舞い、神の名だけではなく釈迦牟尼仏などの仏の名や森羅万象を呼びその鎮魂慰霊をします。

先湯の湯開きと同じように禰宜4人が、五大尊・神の舞・湯木舞・道開き・湯殿渡し・湯召しの順で舞い、最後に鎮めの呪文を唱えて釜の口を湯木で叩いて押さえる湯伏せの所作をします。

 

   鎮めの湯(五大尊)                      鎮めの湯(湯殿渡し)

 

 鎮めの湯(湯召し)                      鎮めの湯(湯伏せ)

24.日月の舞・御座の神 今夜招待した神々を返すための舞で、5人の禰宜が右手に鈴を左手に扇を持って竈を周回しながら「おん日月の いまゆましますな ヤンヤーハーハー 大空へ 粕毛(カスゲ)の駒にな ヤンヤーハーハー 手綱よりかけ」と歌い舞います。次に、竃の正面で鈴を鳴らしながら「御座の神」の詞を唱えます。

 

日月の舞                                御座の神

25.面の舞 神太夫夫婦・八社の神・稲荷と山の神・四面(ヨモテ)・天伯(テンパク)の17の面が登場します。15面が正八幡宮の祭神面で、稲荷と山の神の2面は末社の祭神面です。

神太夫夫婦:神太夫夫婦が伊勢参りの途中で神社に立ち寄ったという設定です。着物姿に綿帽子を被る姥が榊の枝で観衆を祓い、翁の神太夫が村人との問答の後、釜を祓い氏子衆の長寿を祈り、姥とともに竃を周回せずにもと来た道を帰ります。

 

 神太夫(翁)                            神太夫(姥)

八社の神:江戸時代初期に滅んだ遠山土佐守一族を表わし、男神7神は裃姿に烏帽子を被り鈴と扇を持ち、女神一の宮は振袖姿に綿帽子を被り絵扇を持ち、それぞれ竃を2周します。

 

    八社の神                            八社の神(一の宮)

稲荷と山の神:稲荷は赤装束姿に狐面を被り、鈴と扇を持ち舞いながら竃を2周し、2周目では採り物を預け観衆の「ヨーッセー、ヨーッセー」の囃しに合わせて、祭場四隅の観衆の中へ勢いよく跳び込みます。白の広袖・袴姿に木剣を持つ山の神も同じように舞い、祭場四隅の観衆の中へ跳び込みます。

 

「ヨーッセー、ヨーッセー」と囃す                       稲 荷            

 

山の神

四 面:白の小袖・白の袴姿で腰に剣を帯び赤の鼻高面を被る水王と土王が2口の竈の前に並び、腰の剣を外し襷を掛けた後、2面が同時に煮えたぎる釜の湯を右手で湯切りします。

次に、白の小袖・黒の袴姿に襷を掛け赤の鼻高面を被る木王と火王が登場し竃を周回した後、観衆の「ヨーッセー、ヨーッセー」の囃しに合わせて、祭場四隅の観衆の中へ跳び込みます。

 

土王(左)・水王(右)

  

火 王                                木 王

天 伯:面の舞の最後に天伯が登場します。天伯は、金襴の狩衣(カリギヌ)姿に鬼面を着け紅白の布を巻きつけた弓と鏑矢(カブラヤ)を持ち、釜の前で東西南北天地に向かって矢を放ち悪鬼外道を追い払う所作をします。次に、「天下泰平、国家安全、五穀豊饒、目出度く叶う」の唱え詞に応えて、顔で「叶」の字を書きます。

 

天 伯

26.金山の舞 右手に鈴を左手に剣を持つ禰宜4人が竃を周回した後、剣を抜いて「おん金山の腰に召たるさび刀天地に回る」と歌いながら飛び上がって湯の上飾りを切り払う所作をします。

金山の舞

27.神送り、28.遊びのさ送り 帰りのバス時間の都合で見学せずに帰りました。

祭りの栞(トップ)

 

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