大念仏狂言(千本ゑんま堂

【祭礼日】5月1~4日
【場 所】千本ゑんま堂(京都市上京区閻魔前町34)

【日 程】1日19:00~、2日19:00~、3日13:00~、18:00~、4日13:00~、18:00~

千本ゑんま堂は、正式には「引接寺(インジョウジ)」と称し、寛仁元年(1017年)に「定覚上人(ジョウカクショウニン)」が開山したとされる真言宗の寺院で、本尊は閻魔(エンマ)法王です。

当時、引接寺の北方にある船岡山から紙屋川に至る蓮台野(レンダイノ)には刑場葬地があり、定覚上人はこの墓地の霊を供養するため「大念仏会(ダイネンブツエ)」を始め、大念仏会はその後一時途絶えましたが、文永年間(1264~75年)「如輪上人(ニョリンショウニン)」によって再興されたといわれます。この大念仏会が千本ゑんま堂の「大念仏狂言」の始まりといわれています。

京都では大念仏狂言は、千本ゑんま堂のほか壬生寺(ミブデラ)・清凉寺(セイリョウジ)でも行われており、これらをあわせて京の三大念仏狂言と称されます。演者は面を着けて、鉦・太鼓・笛の囃子に合わせて演じます。壬生寺と清凉寺の大念仏狂言は、台詞(セリフ)がなく仕草だけで演じられますが、千本ゑんま堂ではほとんどの演目で台詞が入ります。

ゑんま堂狂言の演目数は復活・新作などにより年々増え、今年の5月本公演(1~4日)では31の演目が予定されています。各公演日の最初の演目は「えんま庁」、千秋楽最終の演目は「千人切り」と決められています。今回は5月3日昼の部の7曲を見学しました。囃子方は、鰐口(ワニグチ)と締め太鼓を兼ねる1人と笛4人で舞台の上手(カミテ)奥で囃します。

7曲のそれぞれのあらすじは次の通りです。ゑんま堂狂言には能系統の「かたもん」と狂言仕立ての「やわらかもん」の二種類があり、演目名の隣にその区分を示します。

1.えんま庁(かたもん)

鬼が縛った亡者をいじめ巻物を奪い、帳付(記録係)に差し出します。帳付は、巻物の内容を読んで亡者が善人であると閻魔法王に伝え、「閻魔帳」にそのことを書き留め、亡者を解放して鬼を懲らしめます。閻魔法王と帳付が去ると、鬼は再び亡者をいじめますが、巻物の不思議な力に負け、鬼は亡者から巻物をもらい受けた代わりに亡者を背負って極楽へ案内します。

「えんま庁」と「芋汁」の演目だけは台詞がありません。

2.靭猿(ウツボザル)(かたもん)

大名が太郎冠者と狩りにでかけ休憩していると猿引きと猿に出合い、猿が大名の顔を引っ掻きます。大名はその猿の毛並が良いとしてその皮を靭(矢を入れる筒)にするため猿を貸せと言います。大名に脅された猿引きが自分の手で猿を殺そうとムチを上げると、猿はムチを奪いけなげに踊りを披露します。これを見た大名はもらい泣きし猿の命を助けることとし、自ら猿の真似をして踊ります。

3.寺ゆずり(やわらかもん)

あるお寺の住職が「さんみ(沙弥=若いお坊さん)」に寺を譲ることにしました。ところがさんみは寺に一本しかない貴重な傘を気軽に貸し出してしまいます。住職は傘を借りにこられた時の断り方を教えます。「傘は雨に遭い濡れて縁側に干しておいたら、叡山おろしで宙へ舞い上がり落ちて、骨は骨、紙は紙とバラバラになったので、荒縄でくくり天井裏に吊り下げてあるので間に合いません」と。足を痛めて馬を借りに来た客にさんみは、傘を馬に替えて断り口上を述べ、客は怒って帰ります。父の三回忌を住職に頼みに来た「おなあ」には、住職に新たに教えてもらった馬借人への断り口上を述べてしまいます。

4.紅葉狩り(かたもん)

平維茂(タイラノコレモチ)は、太郎冠者と信州戸隠山へ鬼神退治に出かけます。二人は 戸隠山で休息し酒宴を始めます。 維茂の命で太郎冠者が紅葉の枝を折ろうとすると、女が現われて邪魔をします。維茂は女も加えて酒宴を続け、維茂と太郎冠者が酔いつぶれて寝込むと、鬼神の化身である女は維茂から太刀を奪い姿を消します。そこへ「神勅(シンチョク)」が現れ二人の呪縛を解き、名刀「小烏丸(コガラスマル)」を維茂に授けて去ります。目覚めた二人は鬼神と闘いこれを討ちます。

5.悪太郎(やわらかもん)

大酒飲みの悪太郎が薙刀を持って暴れた末に酔いつぶれ道の真ん中で寝込んでいると、叔父が悪太郎の髪の毛を剃り僧衣の姿にします。悪太郎は元に戻せと叔父に迫りますが、逆に説き伏せられ「ナムアミダブツ」という僧名を与えられ出家する決心をします。通りかかった念仏行の「なぶり坊主」が「南無阿弥陀仏(ナムアミダブツ)」と名号を唱えるたびに、悪太郎は名を呼ばれたと思い「ハーイ」と返事をします。なぶり坊主は悪太郎をからかいますが悪太郎も負けず、互いに次々と囃子唄を披露しあいます。

6.舌切雀(やわらかもん)

お爺さんがは可愛がっている雀の世話をお婆さんに頼んで山へ柴刈りに出かけます。お婆さんが雀への餌やりを忘れ川に洗濯に行っている間に、お腹の空いた雀は洗濯糊を食べてしまいます。怒ったお婆さんは雀の舌を切り雀を外に追い払います。お爺さんは雀を探しに山に行き、見つけた雀の宿で歓待されます。用意された大小二つのお土産の内、お爺さんは年寄りだからと小さいつづらを選び、家に帰りつづらの中を見るときれいな着物や帯が入っていました。欲張りのお婆さんは雀の宿に押しかけ大きいつづらをもらい、家に帰りつづらを開けると大きな蛇や蟇蛙(ガマガエル)が出てきました。

7.ほうらく割り(やわらかもん)

一の森の朝市で一番に店を出すと永代供養が与えられると聞いた鞨鼓(カッコ) 屋は、夜明け前に来て一の棚に鞨鼓を飾りつけた後、居眠りします。遅れてきたほうらく屋は、一の棚に飾ってある鞨鼓を下げて自分のほうらくを飾ります。目覚めた鞨鼓屋とほうらく屋は、自分こそが一番だと争います。仲裁に入った庄屋は二人に芸競べをさせ、どちらか勝った方を一番乗りにすると告げます。これに勝ったほうらく屋がほうらくを並べて開店準備をすると、羯鼓屋は並べられたほうらくを全て投げて割ってしまいます。

演目に使われるほうらくには祈願者の願い事が書いてあり、見事に割れると願い事がかなうとされています。

 

狂言舞台                                                         囃子方

~えんま庁~

 

左から鬼・亡者・帳付・えんま法王                            鬼が巻物の内容を読む       

 

  帳付が鬼を懲らしめる                                   鬼が亡者に巻物をねだる

~靭 猿~

 

太郎冠者と大名                                                 猿引きと猿   

 

  猿が大名の顔を引っ掻く                                大名が猿の真似をして踊る

~寺ゆずり~

 

        さんみが寺の傘を貸す                             住職がさんみに断り口上を教える

 

さんみが馬借りに断り口上を述べる                     おなあが三回忌法要を頼みに来る

~紅葉狩り~

 

         平維茂と太郎冠者           紅葉の枝を折るのを女が邪魔する

 

     女が維茂の太刀を奪う                                維茂と太郎冠者が鬼神と闘う

~悪太郎~

 

                悪太郎                 叔父が悪太郎の髪の毛を剃る

 

  悪太郎は元の姿に戻せと叔父に迫る                      悪太郎となぶり坊主は芸を披露しあう

~舌切雀~

 

   お爺さんとお婆さん                                    お婆さんが雀の舌を切る

 

お爺さんのつづらから着物が出る                     お婆さんのつづらから大蛇が出る

~ほうらく割り~

 

   羯鼓屋                                                     ほうらく屋

 

ほうらく屋と羯鼓屋の争いに庄屋が仲裁に入る                      羯鼓屋がほうらくを割る               

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